「会社員の妻は仕事を辞めずに産育休を取得するのが最適解」…だと思っていた:2
こんにちは。
ごく自然な会話の流れで実母に「お母さんに育児方針の相談しても力になれないよ。ろくな育て方してないからね」と言われて二重の意味で衝撃を受けているITTINです。
さて、「会社員の妻は仕事を辞めずに産育休を取得するのが最適解」…だと思っていた:1 の続きです。
内容はただの個人の経験談なので、特に「世間や周りの人は妊婦に優しくすべき」とか「妊娠したらこのような行動を取るべき」といったような主張はありません。
人間は過ぎ去れば忘れる愚かな生き物で、私も例外ではない。
何かっつーともし次があった時にすっかり忘れて同じ過ちを繰り返しそうな予感がするので、ある程度苦痛を文章化しておいた方が後の自分に役に立つかもしれないと思い、記録に残しておくことにします。
ごく自然な会話の流れで実母に「お母さんに育児方針の相談しても力になれないよ。ろくな育て方してないからね」と言われて二重の意味で衝撃を受けているITTINです。
さて、「会社員の妻は仕事を辞めずに産育休を取得するのが最適解」…だと思っていた:1 の続きです。
内容はただの個人の経験談なので、特に「世間や周りの人は妊婦に優しくすべき」とか「妊娠したらこのような行動を取るべき」といったような主張はありません。
人間は過ぎ去れば忘れる愚かな生き物で、私も例外ではない。
何かっつーともし次があった時にすっかり忘れて同じ過ちを繰り返しそうな予感がするので、ある程度苦痛を文章化しておいた方が後の自分に役に立つかもしれないと思い、記録に残しておくことにします。
妊娠初期に苦しかったことを怨嗟の言葉で書き綴ろうと思ったら、全部じゃありませんがこの記事に少し書いてました。
第二形態になりました-妊娠前にやっておいた方がいいと思うこと-
◆つわりについて誤解していたこと
周りの人達は優しいので、夫も同僚も「体調が悪い時は無理せずに遠慮なく休みなよ」、と神々のように口を揃えて言ってくれました。
本当にありがたい。
私も「腹痛や出血が出た場合には即受診することにして、つわりで苦しい時には休めば仕事も続けられるだろう」と無邪気に思っていました。
しかしある事実に気づき、絶望が浸食するまでにはあまり時間はかかりませんでした。
休めば良くなる風邪や二日酔いなどと異なり、私のつわりは一時的な体調不良ではなく、24時間ずっと治らないという事実に。
雲間からのぞく一条の光のように、一瞬改善する時が稀にあるくらいです。
「24時間体調が悪い状態、それが数日・数週間・数か月に渡りずっと続く」というのは30年生きてきてついぞ体験したことがない事象でして、妊娠前まで想像もできなかったことです。
周りに説明して理解を得られればいいのですが、「トンカツを人生で一度も食べたことのない人に言葉だけでトンカツの美味さを理解させる」と同じくらいの難易度じゃないかと思うので 私のライブラリにはこの苦痛を説明できるボキャブラリがありません。トンカツ美味いよトンカツ。
で実際、「体調の悪い時にいつでも休める」業態というのは稀でして、残念ながら私の仕事も休みたい時に休める性質のものではなく。
仕事の進捗よりもはや、いかに「なるべく迷惑をかけない」「具合が最悪になるちょっと前の」うまいタイミングで休むかを考える方が重要でした。
しかも体調の一番ひどい妊娠初期は、体型にも変化がなく気づかれませんし、つわり自体周りにも理解が得にくいです。
例えば私の「食べつわり」ですが、気持ち悪さは食べることでしか良くならず、かつ揚げ物しか受け付けないという時期がありました。
これって私が「気持ちが悪い…吐き気がする…」と口を押さえて言ったとして、善意で同僚が「ここは自分がやるから休んで!」って休憩室で休ませてくれた矢先、私が休憩室に駆け込むなりコロッケとフライドポテトをモリモリ貪り食い出したりするんですよ。
それ見たら「え…気持ち悪いって言ってたのに早速揚げ物食ってる…どういうこと…嘘なの…?」ってなりません…?なると思うんですよ。なるだろ。トンカツ美味いよトンカツ。
◆当たり前にできていたことができなくなっても、仕事はいつも通り
普段「起きる・食事する・歩く・立つ・風呂に入る・寝る」という”当たり前のこと”って当たり前にできるので、意識しないんですが。
体感ですが私の場合、仕事の効率は70%程度に。家事や生活の効率は20~50%程度に。気力は20%程度に落ちて妊娠前と同じ生活をするのに2倍以上の時間がかかるようになりました。
もちろん1日は24時間しかないのでそれまでの日常生活が送れなくなります。
1日を壺に例えると、仕事(と通勤)の時間とは壺の中に入れられた大きな漬物石のようなものです。すなわち第三者に決められてしまっている、「取り出せない・動かせない・小さくできない」石。
さて、妊娠によって壺は小さくなってしまいました。どうするかというと、まずは調節可能なゴムボール…すなわち食事や入浴や睡眠や娯楽や家事といった時間を縮小または排除することになります。
幸いにして料理や洗い物、食糧の買い出しといった家事は夫がしてくれていました。ビバ夫。
消去法によって真っ先に淘汰された時間は、友人とのコミュニケーションや趣味娯楽のボール。
唯一残った気力も全て仕事に持って行かれるので帰宅後は廃人のようになります。
睡眠もメチャクチャになりコントロール不能に。
「眠りつわり」とも言うらしいのですが、とにかく日中か否かに関わらず、仕事中でも容赦なく眠気が訪れる…と思えば、深夜の3時頃に目が覚めるようになる。
食べることもできなくなり、平常時であれば15分あれば食べ終わるはずの量の食事を50分かけても食べ終わらなくなります。
かと思えば突如発作のような飢餓感に襲われ、「すぐに食べないと死ぬ」と思うほどの飢餓感に苛まれます。
私の壺の中身は荒れ狂う猛虎に食い散らかされたようになってしまいました。
なんでこの状態が世間様では「病気じゃない」と言われ、病院では「問題なし」とされているのかは神のみぞ知る謎ですが、
変わらざるを得ない体質と生活の中で、仕事だけは「今まで通りの規則的な時間」が続きます。
思うんですが、「仕事」より「食事・睡眠」の方が優先順位が上じゃないですか。生物として。
しかし結果的に、「仕事が生命維持の時間より優先される」という謎事態になりました。
◆妊娠性痒疹を発症
かの病は妊婦の1~2%という稀な頻度で発症するらしく、経産婦(2回目以降の妊娠)に多いようです。私は初産ですが、初産でも発症は有り得るらしい。
私の場合妊娠初期に発症し、ピークは妊娠中期(つまり安定期)、大体半年くらい続きました。
つわりなんぞより遥かに辛かったですし、QOLを90%くらい下げられました。精神にも体にも異常をきたし、平穏な日常生活を営むのは不可能です。重症の人ではその地獄さから「早産させてくれ」「おろしたい」と医師や夫に泣きながら懇願する人もいるようです。
何かと言うと、顔と頭と足の裏と手のひらを除くありとあらゆる体の部位に猛烈な掻痒感を伴う湿疹と痒みが現れました。
見た目にもすさまじい真っ赤なブツブツの湿疹が罪人の証のように四肢や体に猛スピードで次々と刻まれていき、痒みって言うと生ぬるい印象ですが、要は皮膚の損傷と炎症なので、見た目もさることながら痒みに次いで耐えがたい痛みや出血が襲ってくる。一般的には体調が落ち着くはずの妊娠中期には、首から下の全ての皮膚が破壊されていました。
服が肌に接触しているだけで痛み痒みと出血と謎の体液が絶え間なく流れ、下着をつけたが最後ゴム部分を中心に赤く腫れ上がり、その後どす黒く変色。常にどこかに痛み痒みが生じている時もあれば、どこか一点に瞬間湯沸かし器のごとく気が狂うほどの痒みを一瞬で生じることもある。痛すぎて痙攣しますし、デリケートな部分も容赦ありません。
皮膚を剥いて人体模型のごとく全身の神経を剥き出しにされればこんなふうになるのかもしれません。
まさしく”全身”なので、何をするにも常にどこかに痒みが付きまとい、それは24時間休むことなく続くので集中力はもちろん正気を奪われます。
夜は痒みが悪化するので寝るどころか泣きながら耐えるためにのたうち回ったり掻き毟ったりすることしかできなくなり、安らかに眠れる夜はなくなります。
あ、これ、無理だわ。
出産終われば治るとか言うけどあと何か月あると思ってる。精神が崩壊する方が先だわ。
「現世では二度漬けなんてしないから許してほしい」と何度も天に向かって懺悔しました。
で、最悪なことに有効な治療法がありません。
薬は飲めず、医師から処方された外用ステロイドや保湿剤も大して効かず、肌に触れる衣類を全て綿のものにして、ただ改善するのを祈るしかない。
治療法はありませんが恐らく対処法はあります。
症状は夜の入浴や睡眠時に悪化するので、入浴睡眠を昼に行うことで軽減をはかれる。
また、シャワーを浴びると症状が軽減されますし、適宜着替えたり薬や保湿剤を全身こまめに塗ることができれば改善とまではいかないまでも進行をゆるやかにすることができたでしょう。
(患部を冷やすことでも改善するようですが私の場合時期が真冬だったのと、患部が広すぎて流産リスクを考えると無理でした)
だがしかし仕事をしていると、上記のわずかな対処法でさえ一切行うことができない。悪化の一途を辿ります。
上記の方法を実践できる日は来ず、夜は布団に入るのが恐ろしくて一晩コタツで過ごしたりしていました。
重要な作業中に発作のように訪れる痒みで一瞬で発狂しそうになるところを、「アタシ社会人だから」と理性を総動員して足を踏み鳴らしながら耐えるわけです。一日に何度も。
また見た目のインパクトも強烈で、鏡の前に立つと真っ赤な世界地図よろしく、全身まだら模様のムーミンが現れるわけですよ。
何これ、伝説のアイテム?私アイテムになったの?
あとこれ地味に大きいダメージが、どえらい痕が全身くまなくついていて、産後に痒みが落ち着いてももう二度と元の皮膚には戻らないんじゃないかと思わされることですね。一部ならまだしも全身なのがまた。
妊娠中の体調変化なんて出産したら治るもんだと思ってたからなおさら。
幸いにして8か月に入るとなぜか改善してきましたが、安らかに眠れることは本当に幸せです。新たなる咎人の印が生成されないのも精神的に良い。何より毎日精神を蝕んできたあの痒みが出ない日があるというそれだけのことが素敵すぎて、道端の花の綺麗さに感動できるレベルです。
前世での串カツ二度漬けの悪行は許されたのか…。
◆常にチラつく流産リスク
これだけ精神にも肉体にもストレスがかかると、「流産や子どもの発育阻害に繋がるのではないか」という不安と常に付き合いながら働くことになります。
もともと妊娠中や産後はホルモンバランスが崩れて不安定になりやすいらしいですが、終わりの見えない苦痛、疲労、痒みと睡眠不足、休みたくても休めない職場環境が、精神不調とストレスによる負荷を助長します。
加えて職場の人材流出や繁忙も重なり、時期も最悪に悪かった。
自分の体調不良なら”引き際”が大体わかるじゃないですか。
でも、「流産の線引き」って自分じゃわからないんですよ。
どれくらい体に負担がかかると流産の恐れがあるのか?ガイドラインもない。初産なので経験則もなく、未知の領域。
「負担ゼロで働く」ことができればいいのですが、楽園はない。
実際は「可能な限り体に負担が少なくなるように働く」ように線引きが要る。
自分で「これくらい無理しても大丈夫でしょ!」と思っていた労働がアウトゾーンかもしれないし、逆にもう少し”頑張っても”全く影響ないのかもしれない。
立ち仕事は1日何時間まで?自分の労働時間や内容は適切?妊娠を理由に人に頼むべき業務範囲はどこまで?仕事中感じたイライラやストレスはどこまで胎児に伝わって影響を及ぼす?
情報は何もなく、誰も教えてくれず、自分で判断するしかない。
この「線引き」は選択だ。選択の結果は自分と夫で責任を負うことになる。
流産の原因はほとんど先天性異常だそうで必ずしも労働による負担ばかりがトリガーになるとは限らないが、それでも「あの時ああなってしまったのは、仕事のせいなのでは?」という疑惑と後悔を抱いてしまうような事態になれば、その後の人生で「ベストを選択できなかった」ことが ずっとずっとついて回るだろう。
仕事はいくらでも代わりがある。しかし宿った命に代わるものはない。
妊娠中の母体の怒りや恐怖や焦りは胎児に伝わるらしい。もちろん良い影響を与えるはずがない。
仕事やお金は、私の人生においてそこまで優先順位が高いものだっただろうか。命とカネを両立させようと欲張ることで大事な方を失うのではないか?失ってからでは遅いのでは?と自問しながら産休までのカウントダウンを続ける毎日が半年続くのです。
◆「産休まで頑張って働く」は正しいのか
さて、前記事の冒頭の話に戻りますが、産休まで働くと、妊娠判明時にさっさと辞めた場合と比べてお金が数百万単位で多く手に入ります。
無事に産休まで辿り着き、無事に出産できればそれは最適な選択だったことになる。
でも、「命に関わるトラブルがなければ産休まで働くのが最適解」なのだろうか。
今でも私は「産休まで働くのが合理的」だとは思っています。
しかしもう一度同じ状況が訪れるのならば、再びあのような生活を送るのはとても無理です。
仕事を続けられない人が必ずしも、診断書を書いてもらえるような入院や自宅安静が必要なほど重篤な症状であることとイコールではない。
(個人的には、本人にとっては日常生活すらままならないような死活問題が「マイナー」トラブルと表現されるのはやめていただきたいと激しく思っている)
個人的な経験に基づくものになりますが、私は自分が実際に経験した日々を思い返してみると、安易に「妊娠した女性は産休まで働き続けるのが最適解」だとは言えなくなってしまいました。
日々追加される体調不良に耐え、変わってしまった体調を実生活にどうやって適応させるか考え、様々なストレスに追われ、流産早産に怯えながら戦う日々が待っているかもしれないのです。
もらえるカネが多少増えるとして、ここまでQOLを低下させ、ストレスを増やし、母子の命や健康を犠牲にするリスクを負ってまで仕事をするべきものなのか、という自問を常にしながら働いた数か月でした。
まあ私の周りの妊婦さんは「つわりなんて全然ないよ!」と言ってその通り産休までバリバリ働く みたいな人の方が多いので、彼女達やその旦那さんは幸運だと思います。
なので一概に「一律にこうするべきだ」と言うつもりもないのですが、そうでない人間もいる…。
夫や夫になる予定にの方にお伝えしたいのは、こういった事態になった時に最も重要なことは「夫の気遣い」で、我が夫は「辛かったら仕事は辞めてね。無理だけはしないでね」と声をかけてくれたので感謝しています。
(結局産休まで働いたのだが)
多分、世の中の夫達も「嫁さんには産休まで働いてほしいなあ…」と心の中で思っていることでしょうが、合理性云々を一旦置いておいて、妻の体調のヒアリングは欠かさないでいてあげてほしい。
もちろん平気な人もいますが、妊娠中に起こる体調変化は人それぞれ、感じ方も違います。
来世ではこんな苦しい思いをしないよう、現世では串カツ屋に足を踏み入れないようにします。
第二形態になりました-妊娠前にやっておいた方がいいと思うこと-
◆つわりについて誤解していたこと
周りの人達は優しいので、夫も同僚も「体調が悪い時は無理せずに遠慮なく休みなよ」、と神々のように口を揃えて言ってくれました。
本当にありがたい。
私も「腹痛や出血が出た場合には即受診することにして、つわりで苦しい時には休めば仕事も続けられるだろう」と無邪気に思っていました。
しかしある事実に気づき、絶望が浸食するまでにはあまり時間はかかりませんでした。
休めば良くなる風邪や二日酔いなどと異なり、私のつわりは一時的な体調不良ではなく、24時間ずっと治らないという事実に。
雲間からのぞく一条の光のように、一瞬改善する時が稀にあるくらいです。
「24時間体調が悪い状態、それが数日・数週間・数か月に渡りずっと続く」というのは30年生きてきてついぞ体験したことがない事象でして、妊娠前まで想像もできなかったことです。
周りに説明して理解を得られればいいのですが、「トンカツを人生で一度も食べたことのない人に言葉だけでトンカツの美味さを理解させる」と同じくらいの難易度じゃないかと思うので 私のライブラリにはこの苦痛を説明できるボキャブラリがありません。トンカツ美味いよトンカツ。
で実際、「体調の悪い時にいつでも休める」業態というのは稀でして、残念ながら私の仕事も休みたい時に休める性質のものではなく。
仕事の進捗よりもはや、いかに「なるべく迷惑をかけない」「具合が最悪になるちょっと前の」うまいタイミングで休むかを考える方が重要でした。
しかも体調の一番ひどい妊娠初期は、体型にも変化がなく気づかれませんし、つわり自体周りにも理解が得にくいです。
例えば私の「食べつわり」ですが、気持ち悪さは食べることでしか良くならず、かつ揚げ物しか受け付けないという時期がありました。
これって私が「気持ちが悪い…吐き気がする…」と口を押さえて言ったとして、善意で同僚が「ここは自分がやるから休んで!」って休憩室で休ませてくれた矢先、私が休憩室に駆け込むなりコロッケとフライドポテトをモリモリ貪り食い出したりするんですよ。
それ見たら「え…気持ち悪いって言ってたのに早速揚げ物食ってる…どういうこと…嘘なの…?」ってなりません…?なると思うんですよ。なるだろ。トンカツ美味いよトンカツ。
◆当たり前にできていたことができなくなっても、仕事はいつも通り
普段「起きる・食事する・歩く・立つ・風呂に入る・寝る」という”当たり前のこと”って当たり前にできるので、意識しないんですが。
体感ですが私の場合、仕事の効率は70%程度に。家事や生活の効率は20~50%程度に。気力は20%程度に落ちて妊娠前と同じ生活をするのに2倍以上の時間がかかるようになりました。
もちろん1日は24時間しかないのでそれまでの日常生活が送れなくなります。
1日を壺に例えると、仕事(と通勤)の時間とは壺の中に入れられた大きな漬物石のようなものです。すなわち第三者に決められてしまっている、「取り出せない・動かせない・小さくできない」石。
さて、妊娠によって壺は小さくなってしまいました。どうするかというと、まずは調節可能なゴムボール…すなわち食事や入浴や睡眠や娯楽や家事といった時間を縮小または排除することになります。
幸いにして料理や洗い物、食糧の買い出しといった家事は夫がしてくれていました。ビバ夫。
消去法によって真っ先に淘汰された時間は、友人とのコミュニケーションや趣味娯楽のボール。
唯一残った気力も全て仕事に持って行かれるので帰宅後は廃人のようになります。
睡眠もメチャクチャになりコントロール不能に。
「眠りつわり」とも言うらしいのですが、とにかく日中か否かに関わらず、仕事中でも容赦なく眠気が訪れる…と思えば、深夜の3時頃に目が覚めるようになる。
食べることもできなくなり、平常時であれば15分あれば食べ終わるはずの量の食事を50分かけても食べ終わらなくなります。
かと思えば突如発作のような飢餓感に襲われ、「すぐに食べないと死ぬ」と思うほどの飢餓感に苛まれます。
私の壺の中身は荒れ狂う猛虎に食い散らかされたようになってしまいました。
なんでこの状態が世間様では「病気じゃない」と言われ、病院では「問題なし」とされているのかは神のみぞ知る謎ですが、
変わらざるを得ない体質と生活の中で、仕事だけは「今まで通りの規則的な時間」が続きます。
思うんですが、「仕事」より「食事・睡眠」の方が優先順位が上じゃないですか。生物として。
しかし結果的に、「仕事が生命維持の時間より優先される」という謎事態になりました。
◆妊娠性痒疹を発症
かの病は妊婦の1~2%という稀な頻度で発症するらしく、経産婦(2回目以降の妊娠)に多いようです。私は初産ですが、初産でも発症は有り得るらしい。
私の場合妊娠初期に発症し、ピークは妊娠中期(つまり安定期)、大体半年くらい続きました。
つわりなんぞより遥かに辛かったですし、QOLを90%くらい下げられました。精神にも体にも異常をきたし、平穏な日常生活を営むのは不可能です。重症の人ではその地獄さから「早産させてくれ」「おろしたい」と医師や夫に泣きながら懇願する人もいるようです。
何かと言うと、顔と頭と足の裏と手のひらを除くありとあらゆる体の部位に猛烈な掻痒感を伴う湿疹と痒みが現れました。
見た目にもすさまじい真っ赤なブツブツの湿疹が罪人の証のように四肢や体に猛スピードで次々と刻まれていき、痒みって言うと生ぬるい印象ですが、要は皮膚の損傷と炎症なので、見た目もさることながら痒みに次いで耐えがたい痛みや出血が襲ってくる。一般的には体調が落ち着くはずの妊娠中期には、首から下の全ての皮膚が破壊されていました。
服が肌に接触しているだけで痛み痒みと出血と謎の体液が絶え間なく流れ、下着をつけたが最後ゴム部分を中心に赤く腫れ上がり、その後どす黒く変色。常にどこかに痛み痒みが生じている時もあれば、どこか一点に瞬間湯沸かし器のごとく気が狂うほどの痒みを一瞬で生じることもある。痛すぎて痙攣しますし、デリケートな部分も容赦ありません。
皮膚を剥いて人体模型のごとく全身の神経を剥き出しにされればこんなふうになるのかもしれません。
まさしく”全身”なので、何をするにも常にどこかに痒みが付きまとい、それは24時間休むことなく続くので集中力はもちろん正気を奪われます。
夜は痒みが悪化するので寝るどころか泣きながら耐えるためにのたうち回ったり掻き毟ったりすることしかできなくなり、安らかに眠れる夜はなくなります。
あ、これ、無理だわ。
出産終われば治るとか言うけどあと何か月あると思ってる。精神が崩壊する方が先だわ。
「現世では二度漬けなんてしないから許してほしい」と何度も天に向かって懺悔しました。
で、最悪なことに有効な治療法がありません。
薬は飲めず、医師から処方された外用ステロイドや保湿剤も大して効かず、肌に触れる衣類を全て綿のものにして、ただ改善するのを祈るしかない。
治療法はありませんが恐らく対処法はあります。
症状は夜の入浴や睡眠時に悪化するので、入浴睡眠を昼に行うことで軽減をはかれる。
また、シャワーを浴びると症状が軽減されますし、適宜着替えたり薬や保湿剤を全身こまめに塗ることができれば改善とまではいかないまでも進行をゆるやかにすることができたでしょう。
(患部を冷やすことでも改善するようですが私の場合時期が真冬だったのと、患部が広すぎて流産リスクを考えると無理でした)
だがしかし仕事をしていると、上記のわずかな対処法でさえ一切行うことができない。悪化の一途を辿ります。
上記の方法を実践できる日は来ず、夜は布団に入るのが恐ろしくて一晩コタツで過ごしたりしていました。
重要な作業中に発作のように訪れる痒みで一瞬で発狂しそうになるところを、「アタシ社会人だから」と理性を総動員して足を踏み鳴らしながら耐えるわけです。一日に何度も。
また見た目のインパクトも強烈で、鏡の前に立つと真っ赤な世界地図よろしく、全身まだら模様のムーミンが現れるわけですよ。
何これ、伝説のアイテム?私アイテムになったの?
あとこれ地味に大きいダメージが、どえらい痕が全身くまなくついていて、産後に痒みが落ち着いてももう二度と元の皮膚には戻らないんじゃないかと思わされることですね。一部ならまだしも全身なのがまた。
妊娠中の体調変化なんて出産したら治るもんだと思ってたからなおさら。
幸いにして8か月に入るとなぜか改善してきましたが、安らかに眠れることは本当に幸せです。新たなる咎人の印が生成されないのも精神的に良い。何より毎日精神を蝕んできたあの痒みが出ない日があるというそれだけのことが素敵すぎて、道端の花の綺麗さに感動できるレベルです。
前世での串カツ二度漬けの悪行は許されたのか…。
◆常にチラつく流産リスク
これだけ精神にも肉体にもストレスがかかると、「流産や子どもの発育阻害に繋がるのではないか」という不安と常に付き合いながら働くことになります。
もともと妊娠中や産後はホルモンバランスが崩れて不安定になりやすいらしいですが、終わりの見えない苦痛、疲労、痒みと睡眠不足、休みたくても休めない職場環境が、精神不調とストレスによる負荷を助長します。
加えて職場の人材流出や繁忙も重なり、時期も最悪に悪かった。
自分の体調不良なら”引き際”が大体わかるじゃないですか。
でも、「流産の線引き」って自分じゃわからないんですよ。
どれくらい体に負担がかかると流産の恐れがあるのか?ガイドラインもない。初産なので経験則もなく、未知の領域。
「負担ゼロで働く」ことができればいいのですが、楽園はない。
実際は「可能な限り体に負担が少なくなるように働く」ように線引きが要る。
自分で「これくらい無理しても大丈夫でしょ!」と思っていた労働がアウトゾーンかもしれないし、逆にもう少し”頑張っても”全く影響ないのかもしれない。
立ち仕事は1日何時間まで?自分の労働時間や内容は適切?妊娠を理由に人に頼むべき業務範囲はどこまで?仕事中感じたイライラやストレスはどこまで胎児に伝わって影響を及ぼす?
情報は何もなく、誰も教えてくれず、自分で判断するしかない。
この「線引き」は選択だ。選択の結果は自分と夫で責任を負うことになる。
流産の原因はほとんど先天性異常だそうで必ずしも労働による負担ばかりがトリガーになるとは限らないが、それでも「あの時ああなってしまったのは、仕事のせいなのでは?」という疑惑と後悔を抱いてしまうような事態になれば、その後の人生で「ベストを選択できなかった」ことが ずっとずっとついて回るだろう。
仕事はいくらでも代わりがある。しかし宿った命に代わるものはない。
妊娠中の母体の怒りや恐怖や焦りは胎児に伝わるらしい。もちろん良い影響を与えるはずがない。
仕事やお金は、私の人生においてそこまで優先順位が高いものだっただろうか。命とカネを両立させようと欲張ることで大事な方を失うのではないか?失ってからでは遅いのでは?と自問しながら産休までのカウントダウンを続ける毎日が半年続くのです。
◆「産休まで頑張って働く」は正しいのか
さて、前記事の冒頭の話に戻りますが、産休まで働くと、妊娠判明時にさっさと辞めた場合と比べてお金が数百万単位で多く手に入ります。
無事に産休まで辿り着き、無事に出産できればそれは最適な選択だったことになる。
でも、「命に関わるトラブルがなければ産休まで働くのが最適解」なのだろうか。
今でも私は「産休まで働くのが合理的」だとは思っています。
しかしもう一度同じ状況が訪れるのならば、再びあのような生活を送るのはとても無理です。
仕事を続けられない人が必ずしも、診断書を書いてもらえるような入院や自宅安静が必要なほど重篤な症状であることとイコールではない。
(個人的には、本人にとっては日常生活すらままならないような死活問題が「マイナー」トラブルと表現されるのはやめていただきたいと激しく思っている)
個人的な経験に基づくものになりますが、私は自分が実際に経験した日々を思い返してみると、安易に「妊娠した女性は産休まで働き続けるのが最適解」だとは言えなくなってしまいました。
日々追加される体調不良に耐え、変わってしまった体調を実生活にどうやって適応させるか考え、様々なストレスに追われ、流産早産に怯えながら戦う日々が待っているかもしれないのです。
もらえるカネが多少増えるとして、ここまでQOLを低下させ、ストレスを増やし、母子の命や健康を犠牲にするリスクを負ってまで仕事をするべきものなのか、という自問を常にしながら働いた数か月でした。
まあ私の周りの妊婦さんは「つわりなんて全然ないよ!」と言ってその通り産休までバリバリ働く みたいな人の方が多いので、彼女達やその旦那さんは幸運だと思います。
なので一概に「一律にこうするべきだ」と言うつもりもないのですが、そうでない人間もいる…。
夫や夫になる予定にの方にお伝えしたいのは、こういった事態になった時に最も重要なことは「夫の気遣い」で、我が夫は「辛かったら仕事は辞めてね。無理だけはしないでね」と声をかけてくれたので感謝しています。
(結局産休まで働いたのだが)
多分、世の中の夫達も「嫁さんには産休まで働いてほしいなあ…」と心の中で思っていることでしょうが、合理性云々を一旦置いておいて、妻の体調のヒアリングは欠かさないでいてあげてほしい。
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