一人暮らしの不思議体験
春ですね。
4月になり、一人暮らしを始められた方も多いのではないでしょうか。
賑やかな家庭から一転、一人暮らしへ。それは自由な暮らしでしょう。
さて、そんな家族で助け合って育ってきた新大学生や新社会人よ、あなたの「一人暮らしで怖いもの」とは何でしょうか。
私はダントツで”黒いアイツ”だと思うのですが、いまだ幸運にも家の中で遭遇したことはなく、平穏な日々を送っております。
しかし中には、黒いアイツではなく「お化けが怖い」というかわいらしい方もいらっしゃるのではないでしょうか?
さて一人暮らし、怪談とまではいきませんが、私の「不思議だったな」と思った小話でもするとしませう。
ほら、春だから。
そういう季節だから。
4月になり、一人暮らしを始められた方も多いのではないでしょうか。
賑やかな家庭から一転、一人暮らしへ。それは自由な暮らしでしょう。
さて、そんな家族で助け合って育ってきた新大学生や新社会人よ、あなたの「一人暮らしで怖いもの」とは何でしょうか。
私はダントツで”黒いアイツ”だと思うのですが、いまだ幸運にも家の中で遭遇したことはなく、平穏な日々を送っております。
しかし中には、黒いアイツではなく「お化けが怖い」というかわいらしい方もいらっしゃるのではないでしょうか?
さて一人暮らし、怪談とまではいきませんが、私の「不思議だったな」と思った小話でもするとしませう。
ほら、春だから。
そういう季節だから。
大学2年か3年生の今ごろ、
初夏の陽気と眩しい太陽が感じられる季節だったのは覚えています。
私は大学在学中、アパートを借りて一人暮らしをしていました。
当時は勉強と遊びと遊びと遊びと遊びで忙しい日々を送っていました。
しかし私は家の中が好きでして。
よく家に引きこもっては、ごろごろと寝転がったりネットをしたりしていました。
そんなある日のことです。
コンコン。
ふとしたノックの音。
軽快な調子で叩かれたその音は、私の部屋と外界を隔てている玄関のドアから聞こえたように思いました。
私はその音に気づきましたが、同時に訝しみました。
来客は別に珍しいものではありません。
勧誘やセールスの人はたまに来ますし、
学生アパートだったので、同じ棟に住んでいる友人が遊びに来たのかもしれません。
しかし妙だ。
友人、勧誘、宅配業者、大家、どのような来客であれ、インターホンがあるのだから、インターホンを鳴らせば良い。
インターホンは壊れていません。
友達なら、事前に連絡をくれるか、もしくはドアの外から呼びかけてくれるはずです。
そろそろと玄関まで行って、ドアは開けないままそっと覗き穴を覗くと、そこには何もなく、ただよく晴れた外の風景がレンズの中に歪んでおさまっているだけでした。
部屋の外には誰もいなかったのです。
なんだ、気のせいか。
そう思い、その日は何もなく終わりました。
数日後、私はノックの音のことなど忘れて勉強していました。
なぜなら、苦手な教科の試験が同じ日に重なってしまうことがわかったからです。
怠惰な私は、堕落した大学生活をエンジョ~イするために「自由に好きなことをしてよい」と勝手に己に言い聞かせていました。
遊んだり、出かけたり、日がな1日友達と狩りをしたり、地球防衛軍になって徹夜で世界の平和を守ったりしていました。
同時に、「自由でいいけど、踏み超えてはいけないライン」を決めており、その一つは”単位を落とさない”ことでした。
「留年=退学」と同義だったからです。そんな法律はありませんが、学生のうちは親が法律です。
そんなわけで、普段遊びまくりの私でもテスト前だけは勉強していたのです。
ノートをまとめるために机に向かっていると、それは聞こえました。
コンコン。
まただ。
ノックのような音。
ふとノートから顔を上げ、胡乱に思ったものの、私は気にしないことにしました。
なぜなら、音は玄関のドアではなく、家の中から聞こえたからです。
音の正体はわかりませんが、ノック音は来客ではないとわかりました。
だとするとなんだろう、「家鳴り」だったのかな、と私は思いました。
新築の家は、家が落ち着くまでは家鳴りがする、という話。
私のアパートはなるほど新築でして、私は一人目の入居者でした。
新築の物件だから、音の正体はいわくつき物件に棲んでいる幽霊…だとは思わない。
ただ、家鳴りならピシッやバキッという木や金具が動く時の音だと思うのですが、やはり音は小気味よいほどに規則的なノック音でした。
それに、新築の状態から今の今まで1年以上住んできた家なのに、入居時から今まで音は一切しなかったのはなぜだろう、と思いましたが、実際入居から1年以上経って音がするのだから、そういうこともあるのだろうと思いました。
最初に聞いた音もきっと、「これはノックの音だろう」と認識した私の脳が、音の発生源が玄関であると”勘違い”したに違いないのです。
そう思い、ノートをまとめる作業に戻りました。
お察しの通り、この推論は説得力に欠けます。
それからあまり時間をおかず、変だなあ、と感じることが多くなりました。
まず音の頻度。
音は昼夜問わず、部屋のいたるところから鳴り始めるようになりました。
そして、頻度がどんどん増えていきました。
常に音は、「コンコン」もしくは「トントン」。
ある時は玄関先の廊下とリビングを隔てる扉。
ある時は洗面所とリビングを隔てる壁。
ある時は―――冷蔵庫の中から。
冷蔵庫の中から冷却音とは明らかに異なる、ある意味聞き慣れたコンコンという音が鳴った時、ついつい笑ってしまいました。
音の発生源は、家の中とは限らないのです。
ドア。壁。タンス。家電。天井。
あらゆるところから音がし始めるようになったのです。
「頭の中で鳴っている音じゃあるまいな?」と思いましたが、音は家の中でしかしません。
それに、ドアが勝手に開閉するようになりました。
誰も触っていないドアが、私の目の前でスーッと開いていくのです。
主にお風呂のドアとトイレの引き戸でしたが、「家が傾いている?」とビー玉を置いてみても、特に動きません。
なにより新築で傾くとか欠陥すぎるだろうと。
それなりに重量があるので、風でもありません。
他には、触っていないのに、モノがよく落ちるようになりました。
ある時はペン。
ある時はノート。
ある時は洗濯かご。
置く場所が悪かった?
私はこんなにおっちょこちょいだっただろうか?
一人でぼーっとしているとき、私の目の前で、触っていないのに棚に積んでいたポテチの袋がぽとりと落ちました。
…積み方が悪かったのだろう。バランスを崩して落ちたのだ。
そう思い、落ちたお菓子を元の位置に戻そうとして――――、ふとこんな気持ちが沸き上がってきました。
このお菓子は、私の置き方が悪くて、バランスを崩して落ちたのだろうか?
それとも、この部屋に見えざる何かがいて、そいつが落としたのだろうか?
と。
そんなばかげた発想をするまでに、私は音と妙な現象が”自然”だとは思えなかったのです。
私の置き方が悪かったのであれば、落ちない場所に置けばもう落ちないはずです。
私は見えざる何者かに挑戦しました。
ゆっくりとお菓子を戻しましたが、元の位置ではなく、平たんになる場所に。
立てかけるのではなく、横に寝かせるように。
まず落ちないように置きました。
お菓子を棚に設置し、しばらく用心深くその場で観察し、お菓子が動く気配のないことを確認して、私は満足しました。
勝った。
やはり、ここ最近の現象はお化けとは異なる、何らかの理由で起こっていることなのだ。
そうと思うと、存在しない何者かに挑戦している自分になんとなく照れました。
安堵と謎の勝利感を手にし、自分のもとにいた場所に戻り、腰を下ろしました。
ず る り
音がしました。
私の目の前で、まるで私をあざ笑うかのようにそれは、再びゆっくりと落ちました。
ぽてん、と音を立てて落ちたお菓子を見つめ。
おそるおそる立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってお菓子を拾い、私はポテチを自分の居場所に持って行ってもりもりと食べ始めました。
おいしかったです。
そうして「何者か」との奇妙な共同生活が始まりました。
ちなみにこの後現象は顕著になり、洗面所に入るとなぜか右足首が痛くなる、具合が悪くなるという現象に悩まされるようになりました。
笑ったのはリビングから隔たった洗面所の方から「ゴッス!!」と人が膝からコケるような音がしたことです。
すごい音だったので確認しに行ったら何も落ちていなかったですし、隣人でもありませんでした。
「見えざる何か」はドジだったのかもしれません。
続きはあるのですが、長いのと果たしてこの話題に需要があるのかわからなくなったので、需要があれば続きます。
初夏の陽気と眩しい太陽が感じられる季節だったのは覚えています。
私は大学在学中、アパートを借りて一人暮らしをしていました。
当時は勉強と遊びと遊びと遊びと遊びで忙しい日々を送っていました。
しかし私は家の中が好きでして。
よく家に引きこもっては、ごろごろと寝転がったりネットをしたりしていました。
そんなある日のことです。
コンコン。
ふとしたノックの音。
軽快な調子で叩かれたその音は、私の部屋と外界を隔てている玄関のドアから聞こえたように思いました。
私はその音に気づきましたが、同時に訝しみました。
来客は別に珍しいものではありません。
勧誘やセールスの人はたまに来ますし、
学生アパートだったので、同じ棟に住んでいる友人が遊びに来たのかもしれません。
しかし妙だ。
友人、勧誘、宅配業者、大家、どのような来客であれ、インターホンがあるのだから、インターホンを鳴らせば良い。
インターホンは壊れていません。
友達なら、事前に連絡をくれるか、もしくはドアの外から呼びかけてくれるはずです。
そろそろと玄関まで行って、ドアは開けないままそっと覗き穴を覗くと、そこには何もなく、ただよく晴れた外の風景がレンズの中に歪んでおさまっているだけでした。
部屋の外には誰もいなかったのです。
なんだ、気のせいか。
そう思い、その日は何もなく終わりました。
数日後、私はノックの音のことなど忘れて勉強していました。
なぜなら、苦手な教科の試験が同じ日に重なってしまうことがわかったからです。
怠惰な私は、堕落した大学生活をエンジョ~イするために「自由に好きなことをしてよい」と勝手に己に言い聞かせていました。
遊んだり、出かけたり、日がな1日友達と狩りをしたり、地球防衛軍になって徹夜で世界の平和を守ったりしていました。
同時に、「自由でいいけど、踏み超えてはいけないライン」を決めており、その一つは”単位を落とさない”ことでした。
「留年=退学」と同義だったからです。そんな法律はありませんが、学生のうちは親が法律です。
そんなわけで、普段遊びまくりの私でもテスト前だけは勉強していたのです。
ノートをまとめるために机に向かっていると、それは聞こえました。
コンコン。
まただ。
ノックのような音。
ふとノートから顔を上げ、胡乱に思ったものの、私は気にしないことにしました。
なぜなら、音は玄関のドアではなく、家の中から聞こえたからです。
音の正体はわかりませんが、ノック音は来客ではないとわかりました。
だとするとなんだろう、「家鳴り」だったのかな、と私は思いました。
新築の家は、家が落ち着くまでは家鳴りがする、という話。
私のアパートはなるほど新築でして、私は一人目の入居者でした。
新築の物件だから、音の正体はいわくつき物件に棲んでいる幽霊…だとは思わない。
ただ、家鳴りならピシッやバキッという木や金具が動く時の音だと思うのですが、やはり音は小気味よいほどに規則的なノック音でした。
それに、新築の状態から今の今まで1年以上住んできた家なのに、入居時から今まで音は一切しなかったのはなぜだろう、と思いましたが、実際入居から1年以上経って音がするのだから、そういうこともあるのだろうと思いました。
最初に聞いた音もきっと、「これはノックの音だろう」と認識した私の脳が、音の発生源が玄関であると”勘違い”したに違いないのです。
そう思い、ノートをまとめる作業に戻りました。
お察しの通り、この推論は説得力に欠けます。
それからあまり時間をおかず、変だなあ、と感じることが多くなりました。
まず音の頻度。
音は昼夜問わず、部屋のいたるところから鳴り始めるようになりました。
そして、頻度がどんどん増えていきました。
常に音は、「コンコン」もしくは「トントン」。
ある時は玄関先の廊下とリビングを隔てる扉。
ある時は洗面所とリビングを隔てる壁。
ある時は―――冷蔵庫の中から。
冷蔵庫の中から冷却音とは明らかに異なる、ある意味聞き慣れたコンコンという音が鳴った時、ついつい笑ってしまいました。
音の発生源は、家の中とは限らないのです。
ドア。壁。タンス。家電。天井。
あらゆるところから音がし始めるようになったのです。
「頭の中で鳴っている音じゃあるまいな?」と思いましたが、音は家の中でしかしません。
それに、ドアが勝手に開閉するようになりました。
誰も触っていないドアが、私の目の前でスーッと開いていくのです。
主にお風呂のドアとトイレの引き戸でしたが、「家が傾いている?」とビー玉を置いてみても、特に動きません。
なにより新築で傾くとか欠陥すぎるだろうと。
それなりに重量があるので、風でもありません。
他には、触っていないのに、モノがよく落ちるようになりました。
ある時はペン。
ある時はノート。
ある時は洗濯かご。
置く場所が悪かった?
私はこんなにおっちょこちょいだっただろうか?
一人でぼーっとしているとき、私の目の前で、触っていないのに棚に積んでいたポテチの袋がぽとりと落ちました。
…積み方が悪かったのだろう。バランスを崩して落ちたのだ。
そう思い、落ちたお菓子を元の位置に戻そうとして――――、ふとこんな気持ちが沸き上がってきました。
このお菓子は、私の置き方が悪くて、バランスを崩して落ちたのだろうか?
それとも、この部屋に見えざる何かがいて、そいつが落としたのだろうか?
と。
そんなばかげた発想をするまでに、私は音と妙な現象が”自然”だとは思えなかったのです。
私の置き方が悪かったのであれば、落ちない場所に置けばもう落ちないはずです。
私は見えざる何者かに挑戦しました。
ゆっくりとお菓子を戻しましたが、元の位置ではなく、平たんになる場所に。
立てかけるのではなく、横に寝かせるように。
まず落ちないように置きました。
お菓子を棚に設置し、しばらく用心深くその場で観察し、お菓子が動く気配のないことを確認して、私は満足しました。
勝った。
やはり、ここ最近の現象はお化けとは異なる、何らかの理由で起こっていることなのだ。
そうと思うと、存在しない何者かに挑戦している自分になんとなく照れました。
安堵と謎の勝利感を手にし、自分のもとにいた場所に戻り、腰を下ろしました。
ず る り
音がしました。
私の目の前で、まるで私をあざ笑うかのようにそれは、再びゆっくりと落ちました。
ぽてん、と音を立てて落ちたお菓子を見つめ。
おそるおそる立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってお菓子を拾い、私はポテチを自分の居場所に持って行ってもりもりと食べ始めました。
おいしかったです。
そうして「何者か」との奇妙な共同生活が始まりました。
ちなみにこの後現象は顕著になり、洗面所に入るとなぜか右足首が痛くなる、具合が悪くなるという現象に悩まされるようになりました。
笑ったのはリビングから隔たった洗面所の方から「ゴッス!!」と人が膝からコケるような音がしたことです。
すごい音だったので確認しに行ったら何も落ちていなかったですし、隣人でもありませんでした。
「見えざる何か」はドジだったのかもしれません。
続きはあるのですが、長いのと果たしてこの話題に需要があるのかわからなくなったので、需要があれば続きます。
